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江波光則という作家①「ペイルライダー」




こんにちは、斧でございます。まずはじめにお詫びと訂正をさせていただきたく。前回のブログで映画「永い言い訳」の感想とあらすじをだらだらと書いておりましたが、そのときわたくし「主人公・幸夫がひょんなことから小学時代の同級生の子供の面倒をみることになった」というふうに書いてしまいましたがごめんそれ全然違ってた。全然同級生じゃないし物語開始時点では子供たちの父親の陽一くんとは初対面だった。なんだか冒頭の会話とごっちゃにしていたらしい。申し訳ありませんでした。
そして今回もハーモニーの感想は間に合わなかったよ…なんか途中からアニメ版の愚痴をひたすら書きなぐってるだけになって書き直すことにしたよ…そんな切なさと悲しみが入り交じる今日この頃皆さんはいかがお過ごしだろうか。

僕はやっぱり映画を観ているのですよ。最近観たのだと「メッセージ」がとても大好き。SF作家テッド・チャンの短編「あなたの人生の物語」を、「灼熱の魂」「ボーダーライン」「プリズナーズ」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化した今作は僕のツボにまた上手いことかっちりハマって凄く!凄くいい!!
ヴィルヌーヴ監督といえばなんともいえない強烈な後味を残す映画を撮るお人で、特に「灼熱の魂」は双子の姉弟が母親の遺言に従ってそれぞれ自分たちの父親と兄を探しにいくお話なんだけれども、そもそも父親も兄もいないはずなのに母ちゃんは一体何言ってんだべ、と釈然としないまま母親の故郷に行ったりしてみたらなんと母親は現地の反政府組織でテロリストだったとか、そういう話がごろごろでてきて…という話で、なんというかまあ、凄まじい話なんだこれが。
その点「メッセージ」は原作が原作なのでそういう後味とかには特に心配することなく観れたのだけれど、「それ」の宇宙船がいきなり姿を現して何をするでもなくただ空中に浮かんでいる黙示録的光景とか、主人公ルイーズと「それ」が初めて対面するときの禍々しさすら感じる見せ方とか「ボーダーライン」みたいな重低音が響いて不安感を煽る音楽とかがああヴィルヌーヴだなあと思った。つまり最高。反面、ファーストコンタクトものとして「それ」の言語を学んで徐々に解読していく過程が単純にわくわくできて楽しい。ルイーズの死んだ娘との思い出がフラッシュバックするシーンとか、そういうものを思い出させるせいで「それ」が最初は死神みたいに思えたのに、ラストではその印象がガラッと変わる構成もとても美しいと思った。なのでみんな観に行ってくれよな。そんなヴィルヌーブ監督の最新作は「ブレードランナー」の続編だああああああああああ!!!!あと「ガーディアンズオブギャラクシーvol.2」は前作の10倍泣いた。

とまあこんな感じで今回も映画の話をだらだらと書いて字数を稼いでみたよ。そんな僕なんかよりももっと映画好きのボンクラが大活躍するライトノベルを今回は紹介してみるよ。


170604表紙


「ペイルライダー」(江波光則 著 ガガガ文庫 小学館)

なんとなくPENPALSのLonelyDaysを貼っておきますね。




主人公の享一は親の都合で転校を繰り返している。チビで天パでしかめっ面のデブで他人を気遣うこともない。そんなだから転校するたびにナメられていじめられる。でも本当は、そんな自分のルックスと性格を利用してわざと相手にそうされるように仕向ける。仕向けておいて、あることないこと吹き込んで、周囲の人間関係を完膚なきまでにぶちこわしていなくなる。そういうことが楽しくてやめられない、一般的なラノベ主人公像とは一線を画すクズ。
そんな享一だけれど、以前いた学校ではしくじって、逃げるようにまた転校するハメになったらしい。というのも、そこではすでに人間扱いされてないレベルでいじめられていた悠一郎というやつがいて、そいつに親しくするフリをしながら裏ではいじめがひどくなるように仕向けていたのだけれど、それに気付いた悠一郎が享一に対する示威行為としていじめの主犯格をガソリンで焼き殺しかけたから。

そういうわけで転入してきた三流高校の進学クラスは、一流大学への推薦枠をエサにして生徒間での密告を奨励してるという異常なもの。ポイント稼ぎのために優等生のフリをして誰も享一に興味を示さない中、金持ちの娘の鷹音だけはなぜかちょっかいをかけてくる。そんな状況のなかで、享一の周りでは次第に不穏な事態が起こり始める。

タイトルに①と書いてしまったけれど、今後もこの作家を取り扱うかはわからない。それでも好きな作家だし、伊藤計劃以外では唯一著作を全て読んでいる人(だと思ったらどっかの雑誌に載った仮面ライダーの短編をまだ読めていなかった)なので、多分その機会はあると思う。
江波光則といえばデビュー作「ストレンジボイス」、次作「パニッシュメント」と立て続けにえげつない(良い意味で)スクールカーストものを書いた人で、裏青春ものというか、そういうものを書いたらホントにおもしろい人だと思う。
でも最近は早川の「SFマガジン」でSF映画とかのレビューを書いたり、やはり早川から「我もまたアルカディアにあり」などSFものを続けて2本出したりしているので、SF作家としてやっていくつもりなのかもしれない。僕としてはまた泥臭い青春カーストものを書いてくれないかなあと思うところ。
彼の作品の文体はおおむね登場人物の一人称で、突き放したようなというか、異常にドライというか、とてもサバサバしている。というのも、基本的に登場キャラみんなが破滅願望持ちで、あとのことなんて考えずただやりたいことをやるというスタンスの奴ばっかりだからなのかなあと思う。少しばかり作者本人のことを心配してしまうというのは余計なお世話だろうか。なにはともあれ、後先考えず自分のやりたいことをやるが故に結果的に自分のことすらどうなっても構わないという風なキャラには妙な格好よさがあって魅力的。一種の美学も感じる。

「ペイルライダー」の享一も基本的にはそのようなキャラだけれど、少し違うのはその破滅願望が周囲の人間に向くというところ。そこが作中で自他共に認めるクズな所以なのだけれど、今回はその悪癖のせいで痛い目をみている。前にいた学校で悠一郎が人間にガソリンで火をつけて焼き殺しかけたときに自分に対して向けた視線と、人の焼ける匂いが忘れられずフラッシュバックする。そんな中で転校した先のおかしなクラスで、なぜか鷹音という女に付きまとわれることになる。享一が、鷹音の好きな映画の感想ブログの管理人だと知られてからは余計に。享一はクソ映画愛好家で、C級以下の映画を観ては感想をネットに投下しているらしい。無愛想なくせに語り出すと止まらなかったり、アニメ映画をボロクソにけなしたら拡散されて炎上したり、そういうところがあるせいでなんだか嫌いになれないキャラだと思う。というかかなり好きなんだけれど。余談だけれど享一のブログ「プロジェクトメイヘム」の元ネタが「ファイトクラブ」だということに数年ぶりに読み返して気付いた。
話を戻すと、そういう享一と鷹音の絶妙な距離感のやりとりがやっぱりちゃんと青春していて、ああ青春小説だなあとほっこりする。多分享一に好意をもっているっぽい鷹音と、そんな鷹音を気遣うつもりは全くないのに読者視点からみると結果的に鷹音を気遣うような行動をしてしまっている享一。いい。すごくいい。

鷹音は、享一に「革命を起こそう」と提案する。今みたいに密告が黙認されるようになる前の、ごく普通だったクラスに戻そうと。そのときのクラスは青春群像劇を観てるみたいで楽しかったと鷹音は言うけれど、そこで自分も群像劇に加わろうという発想はでてこない。あくまで客席から舞台の上を眺めて楽しむという立場。対する享一は、スイッチが入ると人間関係を完全に叩き潰すまで作動するような機械みたいな人間で、人の輪にはどうあがいても加われない。鷹音もきっと他人とずれていて、この2人は方向性は違えど似た者同士なんだと気付かされる。この「ペイルライダー」という作品には、人の輪に加われない人間の悲しみがずうっと根底にあって、それが悲しいし愛おしい部分だと思う。

結局「革命」は失敗して、鷹音が強姦されて入院してから、享一にスイッチが入って物語が加速度的に動き出す。江波光則節が炸裂して、凄惨な暴力描写がドライな文体で淡々と続く。

何が起きたか分からずにきょとんとしている男の顔面に、上から靴底を蹴り落とす。鼻のひしゃげる感覚が伝わってくる。
体重は俺の武器だ。なるべく体重のかかる方法で、鋭く、踵を落としてやる。
二、三度食らわせてやると、悲鳴が言葉にならなくなる。何がおきているのか全く理解できなくなる。俺は何の容赦もしない。首に巻いてあるこれまた太いネックレスを掴んで男の顔を引っ張り上げて、片手で、振り回すみたいに小便器に叩き付ける。アクセサリー好きは掴むところがたくさんあって、実に楽だ。
(198ページ)

享一本人には全くそのつもりはないのに、鷹音の仇うちのように行動して、それでも黒幕に手が届かず、焦ったりいらついたりして無闇に相手を叩きのめしてそこにつけ込まれるというヘマをする。それでも止まらず、やっぱりどこかで鷹音のことを気にしている。この辺がノワールというかハードボイルドというか、鷹音に対して最低限の義理を果たそうとして行動する享一がひたすら格好よくもあり痛々しくもある。そんなこんなしてるうちに享一は過去=悠一郎と向き合うことになって、ほんのちょっとの救いがあって、一気に結末を迎える。

「許すってなんだよ、なんでてめえが許す方になってんだよ!」
「俺に詫びろってんなら、お前、余計なことしすぎだよ」(口絵の会話)

享一は絶対に自分を曲げないし、謝罪もしない。改心もしない。それがやっぱり魅力的だ。

基本的にどっちが悪いとかそういうのはなく、お互いにやり返しあってやり返せなくなった方の負け、というかそんな感じが潔くて良いと思う。享一と鷹音のやりとりに始まる一連のエピローグの爽やかさもやっぱりちゃんと青春してて、後味の悪さは特にない。たぶんこのあたりでは、読んだひとは大体享一も鷹音も好きになっているのではないだろうか。僕としては人間関係に対して不器用な(という言葉で片付けていいものかはわからない)2人のこれからを応援したい。
ひとまず「ローガン」が超観たい。

(担当 斧)






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  1. 2017/06/04(日) 11:00:38|
  2. 中野店斧

あの子の死体と過ごした一夏の旅。「花と嘘とマコト」




どうも。斧でございます。
はい、えー、前回ブログで「ハーモニー」の感想書くよーって言ってましたけどね、なんか全然書き終わらんので急遽別のこと書くことにしますね。すいませんね、はい。

まあそれでジョジョ6部のプッチ神父の好きな台詞ベスト5とかやろうかなあたかも考えたんですけどね、ちょっと僕がプッチ神父好きすぎて、DIOのためDIOのため言ってる癖に自分のことしか考えてなくてしかもそれに全然気付いてない独善っぷりが最高すぎて大好きすぎてこれも長くなりそうなので別の機会に。

 そういえば先日西川美和監督の映画「永い言い訳」のブルーレイが届きまして。本木雅弘演じる主人公・幸夫と深津絵里演じる夏子の冷めきった夫婦のギスギスした会話から始まる作品で、その幸夫が不倫しているまさにその瞬間に夏子がバス事故で亡くなってしまうという。それで関係もとっくに冷めきってたわ不倫の罪悪感はあるわで全く悲しめない、という話でして。そうこうしてるうちに、ひょんなことから同じバス事故でやはり妻を亡くした小学生のときの同級生の子供の面倒をみることになりまして、その過程でようやく20年連れ添った妻を亡くした実感と罪悪感とまっすぐ向き合えるようになる、という映画で。幸夫が子供たちと過ごす時間とか、亡くなった妻に対して初めて感情を爆発させるシーンとか、テーマ曲の「オンブラ・マイ・フ」が流れるところとか、この映画の全てが優しくてたまらなくてなんか初見時はわけわかんなくなりましたね、はい。

この映画に限った話じゃないですけど、思わぬきっかけで大事な人ってどんどん増えてくよなあって思ったりもしたり。そんでやっぱり思わぬきっかけでけんかとかしてその人とはそれっきり、なんてこともあるよなあなんて思ったり。
そんでいつも前振りが無駄に長いなあって書いてる途中に思ったり。もっとこうスマートにまとめられたらいいんですけどね。さーんって感じで。もうササーン!て。そーん、さァーん!こんな意味判んねえこと書いてるから文章長えんだよって話ですね。そろそろ漫画の話しましょうか・・・前振りと無理矢理つなげて今回は友達とけんか別れしてしまった女の子のお話ですよ。


表紙


「花と嘘とマコト」(あさの著 秋田書店)

今回はなんとなく僕が勝手にこの作品のテーマ曲にしてるアジカンの「アネモネの咲く春に」を貼っておきますね。



おはなしを簡単にまとめてみると、主人公のハナはどうやら家庭環境に問題があるらしく、

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友達のマコトに唯一心を開いていたんですが、

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そのマコトが突然、自分を突き放すように冷たくなってしまいまして。

なんでだろう、どうしてだろうなんてハナが思い悩んでいるうちに、結局マコトに何も聞けないまま彼女は交通事故で死んでしまったんですが、その死んだはずのマコトがなんと動き出しまして。

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ハナはマコトに何があったか聞きたい、やり直したいという一心で、その死んでいるはずのマコトと共同生活をするんですが、やがてテレビのニュースでは米国で「中枢神経代行症候群」ステージⅤの患者が200名を超えたという報道がされて・・・・・・。


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代行症になると、生前に感染したウイルスが死後に活性化して人体の機能を肩代わりするらしく、一応は動いたり食事をしたり、喋ったりもできるみたいなんですが、結局それは刺激に反応して記憶どおりの動きをしているだけで。抱きしめても体温なんてもちろん無いし、ほぼ常に口枷をつけてないといけないし、そんなマコトに対してハナは以前と同じように接しようとするけれども、本当は目の前の友達がただの動く死体でしかないことは重々承知していて、だからどこまでいっても2人の生活は嘘でしかないわけだけれども。

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そうこうしているうちにマコトの症状が進んでいって、肉体の機能も低下して、身体もゆっくりと腐っていって、代行症末期の患者が人を襲ったというニュースが流れて、否応なくいいかげんに現実を認識しないといけなくなるハナ。それでもその嘘を突き通さないと大事な何かを繋ぎとめていられない、嘘の日常を手放さずにいられないハナの危うさとか痛々しさとかそういうものが読んでいてつらいです。

そんなハナを諭して現実につなぎ止めておく役割なのが、代行症研究のために2人の共同生活に密かに協力する診療所の山下医師と、

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ハナの父親です。

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医者として、または親として、大人の立場から現実の厳しさを淡々と、でも決して子供のハナを突き放さずに話すこの2人とハナとのやりとりがたまらなく好きです。

2人の手助けもあり、マコトとの生活を続けるハナですが、マコトもとうとう末期となり、周囲にも隠し通せなくなり、限界が来てしまいます。
それでもただ本当のことが知りたいと、マコトと逃避行を続けるハナ。生前のマコトの希望を叶えるためにふたりで海を目指します。海を目指す作品はだいたい名作ですよね。「ノッキン・オン・ヘブンズドア」とか。天国ではみんな海の話をするんだぜ・・・。この終盤のロードムービー展開のなかで2人がヒッチハイクした車を運転していた坊主頭の青年が、代行症末期のマコトをみて出頭をすすめつつも、2人に協力したりして、とても良いキャラクターです。さらっと過去に何かがあったことを匂わせるだけの描写もグッドです。

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そうしてたどり着いた先で。ハナは親友の優しさと真実を知って、初夏から始まった2人の嘘の日常と旅が終わります。


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主人公のハナが、他の人たちから助けられつつ親友の死から立ち直っていく様子がとても丁寧に描かれていて、ただ内省的では終わらないところにとても好感がもてます。要するにぼくこれちょう好き!映画化とかしねえかな・・・。
ひとって一人で生きていけねえよなあと思いました。ほんとにね。最近は特にね。こういう優しい作品に飢えているのでむしろ何かあったら教えてほしい。とりあえずわたしはこれから「永い言い訳」の原作を読みます。

それではまた。


(中野店/斧)




「花と嘘とマコト」はこちらから。

  1. 2017/04/28(金) 11:00:09|
  2. 中野店斧

壮大なボンクラ草食系ラスボス誕生物語として読みたい「虐殺器官」




こんにちは、斧です。今回は(今回も?)ものすごくネタバレします。



 虐殺器官を観に行きました。やっと。1年以上待ちました。これが学生時代なら大学をサボってでも公開日の朝イチに行って劇場特典も揃えるつもりで劇場に入り浸ったんでしょうがいろんな意味でそんな余裕はもうないです。

 今の最高レベルのクオリティとリアルよりの絵柄のアニメーションでガンアクションと銃で四肢や頭部が吹っ飛ぶゴア描写をきちんと観れる幸せ。この言い方はなんだか誤解を招きそうですね。少年兵の身体が吹っ飛んで損壊する描写はほぼシルエットだったとはいえよくぞここまでと思いました。ちゃんと「月光」が流れたシーンは震えましたね。プライベートライアンはさすがに無理だったみたいで残念。

 最後の描写に賛否あるみたいですが、個人的にはあれはちゃんと見せないからいいんだろ!!と思いました。紛争地帯になったアメリカでピザを食べる主人公はまあ観たかったですけど、原作にはない指パッチンの描写や法則に則って作ってるっぽい原稿や付箋の並べ方からしてどうみても文法発動してるし。なんとなくそれと判ればいいのです。



 そういうわけで今回のレビューはこちら。


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虐殺器官(伊藤計劃著 早川書房)


 伊藤計劃という作家は、「ゼロ年代最高のSF作家」とかなんとか言われて、ものすごおおおおおおく評価されていて、処女作の虐殺器官は新人賞こそとらなかったもののハードSF小説としては異常なくらい売れて、日本のSF界では「伊藤計劃以前・以後」なんて言葉が出来てしまったように、同年代の作家や作品に与えた影響も強くて、長編2作目の「ハーモニー」ではフィリップ・K・ディック特別賞をとってしまったりしたんですよね。でも彼自身は、ラスボスにときメモの主題歌の歌詞を喋らせたり、今回レビューする虐殺器官冒頭で武装勢力が使ってるトラックがどう考えても頭文字Dだったり、あとは涼宮ハルヒとかスパイ大作戦とかのパロディを大切にし、短編「セカイ、蛮族、ぼく。」では、



「遅刻遅刻遅刻ぅ〜」

と甲高い声で叫ぶその口で同時に食パンを加えた器用な女の子が、勢い良く曲がり角から飛び出してきてぼくに激しくぶつかって転倒したので犯した。

短編集「The Indifference Engine」収録「セカイ、蛮族、ぼく。」より



という文章が冒頭から飛び出してきたりする作家さんなのでもっと気楽に読んで良いものだと思います。

 まあ要するに、散々考察も解説もレビューもされ尽くしている作家さんな訳で、今更自分がレビューという名の駄文を書きなぐる必要もない気はするんでね、ぶっちゃけSFマガジンに載ってた解説とか、公式ムックの「蘇る伊藤計劃」とか、あとは彼のブログとかを正直よんでほしいなあって感じなので!今回はこう、簡単に!さらっと!いつもみたいに超長文にはならない感じで!いきたいなあと考えてるんですがどうなるんでしょうね!!それは今の僕にはわからない。

 

 そういうわけであらすじをさらっと書いておくと、9・11テロやサラエボでテロリストの手作り核爆弾が炸裂した結果、買い物にも・交通にも・その他あらゆることに生体データによる認証が必要になった超・監視情報化社会になりつつある世界を舞台に、アメリカ軍所属の軍人兼スパイの主人公・クラヴィスが、世界中で魔法のように紛争と虐殺を惹きおこす男・ジョン・ポールを追って世界中を飛び回るというスパイ小説でありエンタメでありSF小説です。

 

 特殊部隊員のクラヴィス・シェパードは、紛争地域で虐殺行為を引き起こした人物を暗殺する任務をして回っています。というのも、監視によって先進国でのテロはなくなったけれど、そのかわり後進国での紛争や虐殺が異常に増えていたから。その日も武装勢力の指導者を暗殺しにいったけれど、何かがいつもと違う。



「頼む、教えてくれ。私はなぜ殺してきた」



 虐殺を指揮した張本人が、自分がなぜそんなことをしたのか全く理解していない異常事態に遭遇したのです。任務を続けるうちに、毎回標的として上がりはするものの逃し続けているジョン・ポールというアメリカ人が、世界中で虐殺を引き起こしているらしいことが明らかになります。

 彼が赴いた国や地域では、なぜか虐殺が起きて混沌に叩き込まれる。

 彼が訪れると、そこでは魔法のように死体の山が出来上がる。

 ジョンを追う中でクラヴィスはジョンの元愛人であるルツィアと出会い、とある理由から次第に惹かれていきます。そして任務を通してクラヴィスは監視社会における欺瞞と真相、ジョンの目的を知り、やがて悲劇的な結末を迎えることとなります。

 

 かなりハードで作中独自の専門用語も飛び交いますが不思議と読み辛さは全くと言っていいほどなく、人工筋肉が使われた工業機械や兵器・拡張現実などのガジェットも読んでいて楽しいです。もともとは作家になる以前から親しかったゲームクリエイターの小島秀男氏の作品「スナッチャー」を伊藤計劃氏が二次創作した短編がもとになっている今作ですが、映画に精通していた彼らしく、「007」シリーズなどスパイ映画の基本をおさえたようなストーリーテリングが見事です(と、どこかの解説で読みました)。



 主人公のクラヴィス・シェパード大尉とメインキャラのウィリアムズ以下アメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊の隊員は世界各国で暗殺任務をこなしています。作中では兵士のPTSDや、戦闘時の負傷で任務続行は難しくなることを防ぐため、「戦闘感情適応調整」や「痛覚マスキング」といった技術が使用されているのですが、これによって特殊部隊員の彼らは後進国内での激しい戦闘で死体の山に囲まれても、少年兵を銃で吹っ飛ばしても、銃で撃たれても、トラウマや痛みを感じることなく任務に従事することが可能になっています。

  

 しかしながら、まさにその技術によって主人公クラヴィスは、紛争地帯で生きるか死ぬかというある意味圧倒的なリアルの中にいるにも関わらず、実際には戦闘で人を殺し、生き残れたという実感が持てない、リアリティを感じることができないという矛盾の中で苦しみ、苦悩します。この殺意は、自分自身の殺意だろうか、と。僕は僕の意思でそうしているのだろうか。

 そんな彼だからこそ、自分の母親が交通事故に合い、植物状態のまま回復の見込みはなく、延命処置を続けるか否かを他ならぬ自分の意思で決めなければならなくなってしまったとき、激しく動揺してしまいます。そして処置を中止する同意書にサインしたときから、彼は初めて、人を殺したという罪の意識にとらわれ、そのことに関してトラウマを抱えることになります。

 作中でクラヴィスは、しばしば「死者の国」の夢を見ます。そこでは任務で赴いた紛争地域に転がっていたはらわたをこぼした子供や、頭の割れた少年や、虐殺の被害者たちの死体が、そして母親が、みな微笑んでどこかへと行進していく。夢の中でクラヴィスは、自分もその列に加わり、その悪夢的光景に安らぎを憶えます。彼は上記のような罪の意識を持っていて、赦しを欲しているんですが、その赦しを与えてくれる対象が既に死んでおりその機会が永遠に失われているという悲劇を抱えています。だからこそ死者に自分が肯定されるというその光景に安堵してしまう。彼は作中で常に母親の命を終わらせたということに悩み、そのことで母親本人からはもう赦しを得られないという悲しみが行動原理となります。戦場にリアリティを感じられないまま、個人的なことで思い悩む文学部出身の草食系軍人、それが彼です。



 そんなクラヴィスはジョン・ポールの足取りを追って潜入したプラハにおいて、チェコ語の教師をしている女性ルツィア・シュクロウプと出会います。彼女は元MITの学生で、そこの講師だった当時のジョンと不倫関係にありました。潜入任務の過程で彼女と親しくなっていくクラヴィスは、ある日彼女から罪を告白されます。曰く、「サラエボに核爆弾が落ちたあの日、ジョンと寝ていたの」。彼とセックスをしているまさにその時、ジョン・ポールの妻子は観光で訪れていたその地で塵も残さず吹き飛んだのだ、と。クラヴィスの部下であるアレックスの言葉がここで重さを増してきます。



 「地獄はここにあります。頭になか、脳みそのなかに。大脳皮質の襞(ひだ)のパターンに。目の前の風景は地獄なんかじゃない。逃れられますからね。(中略)だけど、地獄からは逃れられない。だって、それはこの頭のなかにあるんですから」文庫新装版52ページより



 ルツィアはそのことに関して罪の意識を感じています。しかし、その罪を告白し、赦しを乞う相手はもうこの世にいません。そしてその点でクラヴィスは彼女になかば一方的に共感し出します。この人は僕と同じ罪を抱えているのだ、この人に自分の罪を告白すれば、自分はそれで救われるのだと執着しだします。ここらへんのくだりのボンクラ感というか、勝手にそれと思い込んで女性の尻を追っかけ出す童貞くささというか、そういうのがなんだかものすごく好きなんですが、マザコンの童貞とか散々ないわれ方をしているのも知ってるのでとても複雑。

 そんなルツィアにつれられ、クラヴィスはとあるバーのマスター・ルーシャスと出会います。彼はクラヴィスに「対価としての自由」の考えを語ります。人はみな、何かをする自由を手放し、別の自由を得ているのだと。今のアメリカはじめ先進国は、プライバシーの自由を放棄してテロへの抑圧からの自由を得ているのだと。だが実際は、そのトレードはまったく釣り合っておらず、監視を強化すればするほどテロは増加する傾向にあり、それは公開されている統計データでみることができる事実だと。



 「あんただったら知ってるだろう。世界中で顧みられていない悲惨な内戦がいくつあるか。人が興味を持つのはそのほんの一部だ。人間は、見たいものだけしか見えないようにできているんだ」文庫新装版292ページより



 工業機械に使われている人工筋肉は、実は人工ではなく、生きたイルカやクジラを解体して取り出した筋肉繊維でできている。調べれば誰でも知ることが出来るのに、誰も知らない。ドミノピザの普遍性の中の暮らしも、映画ストリーミングサービスの無料プレビュー15分のリピートも、そういう嘘っぱちで成り立っている。

 そういうことをクラヴィスに語ったルーシャスは、じつはジョン・ポールその人と繋がっていて、ついにクラヴィスはジョンと邂逅を果たすことになります。



 ジョン・ポールはなぜ、後進国で虐殺を引き起こすことが出来るのか。ジョン・ポールはどうやって、虐殺を引き起こしているのか。その方法は物語中盤のこの時点で結構あっさりと明かされます。人間の脳には生得的な文生成機能がある。人間の脳は、その機能により言葉によって無意識に行動が決定づけられてしまう。言語学者だった自分は、戦争などで残虐行為がおこった地域のテキストデータを文法解析にかけて、特定のパターンがあることを見つけた。ではそのパターンで作られた文章を、残虐行為の起こっていない地域に流したら。

 人間の行動は、意識は、魂は、言葉によって規定されてしまい、そのことは遺伝子にコードされていてどうすることもできないのだとジョンは語ります。じゃあその言葉に左右されてしまう人間の意識ってなんなん、というのが次作「ハーモニー」のテーマのひとつであるんですがまあその辺はまた今度。



 この時点ではジョンが虐殺をまき散らす動機はまだ明らかにはなりません。それが明かされるのは、クライマックスのアフリカにて。その前にクラヴィスたちは、ジョンを拘束するために訪れたインドで、まさに地獄をみることになります。



「どうですか、いまなら子供を殺せそうですか」文庫新装版269ページより



 インドでの任務直前、クラヴィスに感情調整を施したカウンセラーの言葉です。痛覚をマスキングし、感情面も戦闘に適応するよう調整された兵士たちは、インドで麻薬づけにされた少年兵を殺してゆく。適切な処置をすれば単なる仕事としてそれが可能になり、結局のところ自分たちは、麻薬で麻痺した目の前の子供とそんなに変わらないと部下には指摘される。それでもクラヴィスは選択し、背負おうとします。殺したのはまぎれもなく自分の意思で、これは僕の罪だというふうに。しかしながらやはり、彼自身はそのとき感じるべき身体の痛みも心の痛みも感じることはありません。そして地獄。初めて自分たちと同じような特殊部隊との戦闘を経験することになるのです。

 痛みを感じない兵士同士の戦闘は、頭を吹っ飛ばすか身体をミンチにするまで続くハイテクゾンビ同士の殺し合いでした。



<わかりません、他の客車がどうなっているのかは。(中略)俺にしても、外に出ようとしたときに左腕を肩から吹っ飛ばされちまいました>

それまでとなんら変わらぬ声色のまま、リーランドがものすごく派手な事実をさらりと言ったので、ぼくは思わず笑いそうになった。(中略)いやいや、まいっちまいましたよ、気がついたら頭がなくなっていたんでさ。

文庫新装版319ページより





腕がもげても下半身がなくなっても、完全に死ぬまでは銃を撃ち続けるグロテスクな光景。悪趣味な笑い。現実になったモンティ・パイソン。仲間が大勢死んで、まさにそれは地獄だったけれど、クラヴィスはやはり何も感じることができない。

 

ぼくはからっぽだった。誰を憎めばいいのかさっぱりだった。(中略)ぼくが必要としているのは罰だ。ぼくは罰してくれる人を必要としている。いままで犯してきたすべての罪に対して、ぼくは罰せられることを望んでいる。

文庫新装版330〜331ページより



またもやジョンを取り逃がし、部隊は敗北。そして彼はただただ罰と赦しを欲します。ジョンと共に消えたルツィアを、それこそ強迫観念的に。痛みもそれに伴う成長もなにも得られずからっぽのまま思考は堂々巡り。その状態で主人公クラヴィスの物語はクライマックスへ。



 徹底した監視によって先進国のテロはなくなった様に見えたけど、それは全部嘘だったと物語中盤で明かされましたが、実際問題、作中では先進国でのテロは起きていませんでした。それは何故だったのか、ジョン・ポールは本当は何を目的に何をしていたのか。アフリカ大陸・人工筋肉用にクジラやイルカが養殖されているヴィクトリア湖沿岸で、クラヴィスはジョンとルツィアに再会し、ついに真相を知ります。



「愛する人々を守るためだ」文庫新装版368ページより



サラエボで妻子が死んだ時思ったんだよ、彼らには彼らに殺し合ってもらう、こんな悲しみは十分だ、アマゾンで買い物をしてみたいものだけ見て暮らす、そんな世界を守るとジョンは言います。テロを起こすほどの憎しみが先進国に向く前に、内輪で混乱を起こすと。価値観の逆転がここで起こり、世界中で虐殺を起こした張本人が実は、アメリカはじめ先進国にとってはある意味で正義だったことが明かされます。先進国の平和は、後進国での混乱のうえに成り立っている。自由は、死体の山とのトレードの上に成り立っている。

 その自由の対価として責任を負う必要があるとルツィアは言います。クラヴィスはジョンを逮捕し、すべてを公にすべきだと。それが彼女なりの罪に対する責任の負い方で、彼女の選択で、決断でした。クラヴィスも賛同します。僕たちは罪を背負うべきだと、彼はここに来てようやくすべてを受け止め、からっぽのままただ悩むだけでなく前に進もうとします。



「いままでは世界なんか守っちゃいなかった。ただ命令されたから、やっていただけだ」

「これからは、違うのかい」

「わからない」ぼくは正直に答える。「でも、いろいろなものがはっきり見えるようになる。そう思うんだ」

文庫新装版383ページより



しかし、ジョンが語った真実は、テロ対策として情報インフラを整備してきた先進国つまりアメリカにとって不都合そのもので、結局すべてもみ消されます(あくまで一旦は、ですが)。そうまでして守らなければならない自由とはいったい何なのか。地獄の上に浮かんでいるはずの、このピザを認証で受け取りビッグマックを食べきれなくて捨てる世界の正義とはなんなのか。ここでクラヴィス・シェパードという青年は、またもやからっぽになってしまいます。そのからっぽの状態のまま、とある決断をするわけです。ジョン・ポールから託されたメモを手にして。



ぼくは罪を背負うことにした。ぼくは自分を罰することにした。(中略)とてもつらい決断だ。だが、ぼくはその決断を背負おうと思う。

文庫新装版396ページより



 ジョン・ポールがアメリカを守るためにそれ以外の国の命を背負うと決めたように、ルツィアが平和は地獄の上に浮かんでいることを公にすべきだと決断したように、クラヴィスもようやく彼自身の決断をします。誰かに罪や罰を背負わされ、誰かに罰してもらうのではなく、彼自身で罪を背負い、彼自身で自分を罰することにするのです。あくまでからっぽのまま。見たいものしか見ないようにしてきたみんなに、ここ以外の場所はどれだけ地獄だったのかをこれ以上ない方法でわからせるということ。



 外、どこか遠くで、ミニミがフルオートで発砲される音がする。うるさいな、と思いながらぼくはソファでピザを食べる。

 けれど、ここ以外の場所は静かだろうな、と思うと、すこし気持ちがやわらいだ。

文庫新装版396ページより



 それはどこまでいっても彼のエゴで、ジョンとルツィア両名の思いを踏みにじることにもなるのですが、僕としてはどんな形であれあんだけふらふらしてた彼が彼自身の決断をすることが出来たことを讃えたい。まあこの後えらいことになって「ハーモニー」の世界に繋がるんだけど。結局世界中巻き添えで地獄をみるけど!でもちょっと待ってください。自分のエゴを押し通した結果(ある意味で)世界を滅ぼすラスボス。とっても素敵ではないですか。そう、この「虐殺器官」は壮大なラスボス誕生秘話なんだよ!「エピソードⅢ」なんだよ!(絶対ちがう)



 まあ、僕の好みとクラヴィスという人物が最終的に決断できたからといってそれで成長できているかどうかはまた別の話で、だからいろんなとこで彼に関してあーだこーだ言われるのもわかりますよ、わかりますけど、結局彼の行動原理ってどこまでいっても大切な人を失った悲しみなわけで、だから彼には共感せざるを得ないんです!だって大事なひとがいなくなった悲しみって普遍じゃないですか。ラストシーンも起きてることとは裏腹にすごくポジティブな感じがして、ああ前向きになったねクラヴィス!ってなるじゃないですか。ならないですか、そうですか。



 そういえば今作で使われた「感情調整」や「感覚のマスキング」などのガジェットは世界観を共有している短編「The Indifference Engine」でも使われていて、ここでも先進国側の正義の押しつけで起こるグロテスクな悲劇と妙に前向きさを感じる読後感とかがたまらないという話をしたい。もうこのままレビューいっちゃいましょうか。もういいですか、そうですか。なんですかね、こんなに長くするつもりはなかったんですけどね、手がね、勝手にね。



次回は「ハーモニー」の感想を書きますよ。



(担当 斧)



「虐殺器官」ふくめた伊藤計劃の作品はこちら。

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  1. 2017/03/18(土) 11:00:00|
  2. 中野店斧

前回のブログで今年邦画すごかったねーって話してるのにそこにヒメアノ〜ルを入れ忘れたのが一生の不覚なのでちょっと森田くんに刺されても文句言えない




 先日散々発売延期になってた「ジ・アート・オブ・シンゴジラ」がやっっとこさ届きました。思ったより文章の量がはるかに多くて読破するのはきっと当分さきだろうなーと思いますはい。そーいうわけでとりあえず写真とかコンセプト画だけぱらぱらーっと眺めてる日々なんですがこうしているとあの時の感動が蘇ってアアアアアアーーーーーーーーーー!!!!

 自分がシンゴジラを結局6回観に行ったのにはそれなりに理由があってですね、あの冒頭の「何が起こってるか全然判んないけどもう状況が取り返しの着かないくらいに進行してる不穏な空気」とかゴジラが初めてまともに画面に映って初めてBGMが流れるシーンとか散々ゲロビームだの内閣総辞職ビームだの言われるみんな大好き放射熱線で東京壊滅するシーンとかそうして苦い思いをさせられ続けて最後の最後にやっとやっと反撃に転じて宇宙大戦争マーチが流れるシーンのカタルシスがもう大好きでアアアアアアアーーーーーーー!!!!そして予約開始されたシンゴジラのブルーレイ三枚組をアアアアアアアアーーーーーーー!!!!!(Amazonでスチールブック付きと一緒にマイケル・マン監督「ヒート」20周年記念ブルーレイを予約する音)



 というわけで年末は久しぶりに大学の友人と会って飲んで部屋に泊めたりしてました。どういうわけだ。それは僕にもわからない。密室に男2人で一晩。何も起きないはずはなく…(何も起きませんでした)。



 とりあえず久々に会って学生時代のことを話したりして思い知ったのは、学生時代って本当に楽しんでたんだなということでした。レポートに追われてたあの日々が懐かしいです。そんな気分で今回紹介するのはこれです。


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ワールドゲイズクリップス(五十嵐藍 著 全4巻 角川書店)

 

 主に高校生の少年少女たちの青春をオムニバス形式に描いた作品。いくつかのエピソード、いくつかの主人公たち。ちょっとした家出とか、文化祭の準備とか、放課後にする無駄話とか、子供時代のほんの一瞬をきりとったばらばらなお話のなかで共通しているのは、これまでとこれからの日々に対する虚無感。漠然とした諦め。空虚感。わかりますか、思春期に感じたアレです。あのむやみなアンニュイさ。あの感じです。「こんなことしててなんか意味あんのかな」っていうアレです。そして何度も何度も訴えてくるのは、意味なんかあろうがなかろうが何もかも必ず変わっていくということ。



「もうすぐ卒業。どう思う?

 最近教室に入るとさあ、進路とか将来の話とか、みんなで離ればなれになるための相談をしてるみたい。(中略)時々なんか変なむなしさみたいなものを感じてさ。もうすぐみんなバラバラ。過ぎてく。忘れてく。なくなってく。今までがなんか無意味くさいなって…」(1巻収録「ウォーキングウィズアフレンド」より)



アアアアアアアアアアアアア!!アアアアアアアアアーーーーー!!!!(言葉に出来ない感情の波にもまれて床を転げ回る)



この作品で特に好きなエピソードがあって。家庭に問題がある優等生の委員長と同じクラスの不良が一緒に家出してみる「放課後ロスト」と、まああとは2巻全部なんですけど。



放課後ロストでは、「家出したって状況は何も変わらない」という委員長に対して不良がこんなことを言います。



「最近なにしてた?今の私たちなんか一瞬だよ。クラスメイトとの賑やかな日も過ぎてく。カップルが永遠の愛を誓っても嘘になるかもしれない。悩みもいつか消えてく。明日全部なくなるかも。委員長が望んでも望まなくても嫌でも変わってくよ」(1巻収録「放課後ロスト」より)



そしてこの直後に家出を通じてちょっと仲良くなった2人はあっさり離ればなれになる。



2巻の「橙色の時間とさようなら」では高校を中退した男の子が元クラスメイトの女の子に告白してフラれる。そのときのこんなやりとり。



「どうかさ、ずっとそのままでいてください」



「…んー、無理です。きっと変わっていきます」

(2巻収録「橙色の時間とさようなら」)



アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!

 

このさァ、作品通して流れるダウナー過ぎる空気感とか、今悩んでることとか時間が経てばきっとどうでもよくなったりするってどこかで判ってるからこその通過儀礼的な諦念とかがたまらなくてんああああああ!!

 だって実際自分が昔どんなことで悩んでたかなんておぼえてないじゃないですか。この作品の登場キャラたちも今でこそ内面的なセカイのことでグジグジ言ってるけど結局はあっさりいろんなことに順応して普通に社会とか外の世界にむかっていくんですよきっと。そういうことを読者もキャラもどこかで悟ってるから感じる「今この瞬間」に感じるセンチメンタルな気持ちなアレやそれがほんとに、ほんとにたまんないっていうか久々に読んだら刺激が強すぎて死にそうたすけて。



基本的にこの作品って登場キャラがみんな揃ってくだらない言葉あそびとか暇つぶしで何となく思いついたことをするだけなのになんだかよくわからない切迫感とかがあって。あえて傍からみてると心底どうでもいいよくわからないようなことで遊んで時間をつぶすのはそれが多分当人たちにとって本当に切実なことだから。どんなことでもいいから今一緒にいる人たちと何かを残した気にならないといつか本当に何もかも消えてしまうと思っているからなんじゃないかなあと思いました。



2巻に登場する里美とユウは、文化祭の準備中に出会って暇つぶしを通じて少し仲良くなるけど、ユウが近々転校することを告げたとたんお互いに距離をとるようになってしまうんですが、そのときのユウの台詞がね。ホントね。



「でもそういうのって、どうやったってあるもんだよね。小学校中学校過去の友達って今も全員友達?(中略)全部は持っていけなくて、ぽろぽろ落としていっちゃうんだ」



ほんとにねー、なんかねー、昔すごい仲良かったのにいつの間にか疎遠になってて、久々に会ったりしたはいいけど全然上手くいかないのって誰にでもあるじゃないですか。ていうかよくよく考えたらその人とどうやって仲良くしてたかもう全然思い出せないし、別にその人がいなくても自分の人生もその人の人生も問題なくまわるし、でも何かが欠けたっていう感覚はまちがいなくあるしでもう何これ、何の話?これ。ほんとね、そんな感じなんでね、本当にこの台詞が当時の自分に刺さっちゃって、なんか涙がとまらなくなったんですわ。お前いつも泣いてんじゃねえかって話なんですけどね、ほんと…ふううううわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!もう駄目だだれかぼくを殺してくれ…







始終テンションが低くて諦めや漠然とした絶望ばっかりの漫画です。でも、良いことがあっても、哀しくても悩んでても、時間が経てば何もかもいつかは嫌でも変わっていって全部忘れて行って、そうして全部なくなったって、あの日あのときあなたが感じたなにもかもがあなたにとっては尊くて大切だったのだと、そういう風なわりと前向きなメッセージを伝えてくれている気がします。



「ワールドゲイズクリップス」の通販はこちら。
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(担当 斧)

  1. 2017/01/18(水) 11:00:54|
  2. 中野店斧

このまま映画の話で終わったらどうしようかと思ったらやっぱり映画の話で終わった




 今年はわりと邦画を観に行く。すごいですねえ今年は。去年もすごかったんですけどね。マッドマックスとスターウォーズでヴァルハラに逝ったりフォースに導かれたりダークサイドに堕ちたりで上が下でお前が俺でのお祭り騒ぎ。何言ってんだ僕は。

 今年はねェ、ほんとねェ、邦画がねェ…。ゴジラやら君の名はやらヒメアノ〜ルやらアイアムアヒーローやら怒りやら。ディストラクションベイビーとか葛城事件なんかもありましたね。あとは淵に立つの浅野忠信が本当に怖かった。洋画も「手紙は憶えている」とかすごいおもしろかったですけど。主にブレイキングバッドのハンクおじさんがネオナチになってたところとか。ていうかミニシアター系もチェックしはじめたらキリがないね。最近は何者と永い言い訳とこの世界の片隅にを立て続けに観に行きました。

 そんで何者の話なんですけどもね、誰しも経験がある就活あるあるですよ。予告のわりとポップな感じに惹かれて行ったらもう蓋を開けてびっくり。超リアルで生々しい人間関係と劣等感と嫉妬うずまくドロドロした暗い話が展開されてぶっちゃけすげえ胃が痛くなりながら観てたんですが、とある登場人物が終盤で肥大しまくった自意識と歪みに歪んだ承認欲求からたったの一言で解放される瞬間にもう涙がぶわーっと溢れて正直今年ベストになったし「忘れられない人生の一本」になってしまいました。そしてその直後にみた西川美和監督の「永い言い訳」が軽々と今年ベストを更新していきました。

この「永い言い訳」がヤバい。もうヤバい。何がヤバいって本当に良いものに出会ったときひとはヤバいとしか言えなくなるし嗚咽するほど号泣するわけでもなくただ自然と涙がすーっと頬を伝ってゆくのだと思い知りました。身近な人を失って、それを乗り越えようとして、あるいは忘れようとして、別の誰かと関係を築きながら哀しみをゆっくりと咀嚼していく様子が感情的になりすぎずに淡々と描かれて、それゆえに画面から溢れ出てくる優しさ。名作です。



 そんで似たような漫画がそういやあったなあと思い出した感じです。それがコレ。


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ストレッチ (アキリ著 全4巻 小学館)





  東山翔さんという成年向けロリ漫画家がいてさァ。



 いやわかるよ。いきなり何の話だって感じだよね、まあ聞けよ。

 その人が百合アンソロジー誌「つぼみ」で連載してた「prism」っていう漫画がそれはそれはもう、それはもうね、いやあもう。大変によろしいものでございましてですね。


161203表紙5


prism (東山翔著 全1巻 芳文社)



こいつぁとんでもねえものが生まれちまったぞと。こいつぁ大変なことになるぞと。世界がひっくり返るぞと。神の存在を感じたぞと。それくらいに百合界隈では騒がれていたという名作なんですがね。って僕が勝手に思ってるだけなんですけどね。



でもとある事情で連載が中止になってしまって。間もなく掲載誌も廃刊になって。未収録2話を残して事実上終了してしまった不遇の作品なんですね。



こいつぁとんでもないことになったぞと。こいつぁ大変なことになるぞと。いっそ世界が終わるぞと。神は死んだぞと。「prism」の打ち切りってそれくらいの大事件だったんですよね。主に僕の中で。



いやまあ最後に掲載された話が主役2人が初めて結ばれるってそれはそれでキリがよかった気がしないでもないんだけど違うそうじゃねえんだよ!畜生、俺たちはこの行き場のない悲しみをどう乗り越えれば良いんだ!



 …ってなってたときに突然「やわらかスピリッツ」でweb連載が始まったのが「ストレッチ」でございまして。ええ、そうです。絵をみたら作者アキリってお前これどっからどうみても東山某先生ェじゃねえか!しかも内容はOLと女子大生のルームシェア生活…?百合じゃねえか!!ひゃっほう!先生ェはやっぱり俺たちを見捨ててなんていなかったんだ!えーと何の話だっけ。そうだ内容紹介しなきゃ。



 はい。そんで「ストレッチ」ですけどね。上記のとおりOLの慧子と、


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どうやら医学部生らしい蘭が


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なんか東京でルームシェアしてるって話です。そんだけです。

いやそんだけじゃないんだけど。ごめん、はやく書き終えて借りてきたアメリカンヒストリーXを観なきゃいけなくて…。



なんかこの慧子と蘭は高校時代の先輩後輩の仲っぽくて、ルームシェア始める前までは疎遠になってたっぽくて、でもある出来事をきっかけにたまたま再会して、って感じのことが小出しの回想とかエピソードでちょっとずつわかってくる。そういうスパイスをはさみながら、基本的にはふたりのちょっとほっこりするやりとりとか、他愛も無い会話とか、くだらない毎日が淡々と描かれる。


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こんなんとか


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こんなんとか


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こんなんとかねー。



ふたりのやりとりのくだらなさとか身近さに、少しクスっとしながらまあ基本的には楽しく読み進められると思う。でも、そういう楽しい日常に不意に出てくる、死を連想させるような暗いイメージにぎょっとする。



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 そもそもどうしてこの2人一緒に暮らしてるんだろう、たまに出てくる不吉なイメージはなんだろう、この胸騒ぎはなんなんだろう。そう思いながら読み進めると急に、ピンとくる。断片的なイメージ。海。喪服。東北。停電。育てていた花が怪物に食べられる夢の話。



ああ、あの地震だ、と多分日本人ならみんな気付く。あの、春先の。それともうひとつ。そっか、これそういう話だったんだと、気付いた瞬間鳥肌が立ちました。



気付くと同時に、このお話の終わりも見えてきて。すなわちこのふたりはお互いに何か大切なものを喪っていて、その哀しさとか喪失感とかその他いろいろなものにある程度の決着が着いたら、たぶんこのルームシェアは終わってしまうんだろうなあと。


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僕はサンデーで連載してる「だがしかし」がすごい好きでして。


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だがしかし (コトヤマ 著 最新6巻 以下続刊 小学館)



というのも理由があってですね。アレ一見すげえくだらないシュールギャグに見えるじゃないですか。そんでその内容がほんとくだらなくて、アホかよって思いながら楽しく読んでるんですよ。これずっと続けばいいのになあって。でもギャグの合間にふっと現実に引き戻されるというか、何か終わりを予感させるシーンが挟まって。このキャラたちのこの今のやりとりが永遠に続いてほしいけど、でもその日常にはいつか終わりがくると判っているから「今」が尊いんだなっていうなんかアレです。駄目だかっこいいこと書こうとしたら全然上手くいかなかった。



 「ストレッチ」に話を戻すとですね、まあなんていうかなんだ。こういう作品、要するに「いつまでも続いてほしい日常はいつか必ず終わるということが思い知らされる作品」に出会うたびに同時に思い知らされるのが「今の日常はいつか必ず終わるけどその後も日常が続いて行く」という こと。身近な人が死んだりいなくなったりしてそれまでの毎日が終わっても、人生が続いて日常が続いてく故の残酷さと救いと優しさですよ。誰かを喪った悲しみは消えなくても、時間をかけて自分の中で気持ちに整理をつけることはできるんだよ。なんて優しさに溢れた作品なんだろうと震えました。

 なんていうか愛しい。この2人のたった一年の同居生活がただただ愛しくて愛しくてたまらない。最近は「この世界の片隅に」を観たときもおんなじようなことを思いました。


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くだらないとるに足らない日常は永遠じゃないからこそ尊くて美しい。



 こういう優しい作品に出会うと心底漫画読むの趣味でよかったなあとか感じます。

(担当 斧)



あとひとつ訂正。冒頭で長々と感想書いといてアレなんだけど今年のベストは「永い言い訳」でなくぶっちぎりで「この世界の片隅に」だからみんな観に行こうな!!



prism含めた東山翔先生の作品の通販はこちら。違うんだ、僕はロリコンじゃないんだ。ちょっと守備範囲が広いだけなんだ!!

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だがしかしの通販はこちらからー。

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  1. 2016/12/03(土) 11:00:00|
  2. 中野店斧

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