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ブラックジャックアンソロの種村有菜がヤバい件




お久しぶりですこんにちは。自宅のベランダにカメムシが来る中野店白石です。
今日はこちらの本をご紹介。
手塚治虫ブラックジャック40周年アニバーサリー・ピノコトリビュート『アッチョンブリケ!』(秋田書店)


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読んで字のごとく、手塚の往年の名作ブラックジャックに登場するピノコに焦点を当てたトリビュートコミックです。
表紙がキュート&スゥイートな星野リリィであることからお察しの通り、執筆作家のほとんどが少女or女性漫画家で構成されています。
そうすると自ずと中身は似通ってきまして、あらゆる絵によるかわいいピノコ…と見せかけてあらゆる絵でリメイクされた作者のブラックジャック先生への恋心が好き勝手爆発するという現象が多発しています。要するに、ダークでクールなBJの元でおくたんポジションを保持するピノコが羨ましすぎた女性読者による「ちょっとお前そこ替われ」なトリビュート本です。まっったく同じことを常々思っている自分としては「せやろな」の一言です。
その中で、突出したクオリティで異彩を放つ作品がいくつか。紗久楽さわと種村有菜です。

まずは紗久楽さわ。


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とにかく画面の密度が高い。誰もがイケメンBJとピノコの絡みを描く中で、「ケン一探偵長」のケン一と「リボンの騎士」のサファイアというなんともツボをつく組み合わせで展開します。勿論そこにピノコも加わる訳ですが、そもそも画面からほとばしる手塚治虫愛がハンパない。


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漫画に出てくる人物が、モブまで含めすべて手塚キャラなんです。人間昆虫記の男(十村十枝子の正体を掴もうとして結局埋められたヤツ)なんて名前すら出てこないけど、それらが一目で分かる画力に敬服。細かい演出や擬音をちゃんと手塚風に描いているところも熱い。


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見よこのプール際のショタロリエリア!!ちっちゃい一コマの中にピノコとアトムとメルモと写楽とリッキーですよ?もしここにブッキラがいたら卒倒もんですよ(個人的に)!ピノコとケン一の行く先々にこれでもかってくらいあらゆる作品のキャラが詰め込まれてて、読んでるこっちがニヤニヤしてきます。
紗久楽さわはエンターブレインで『かぶき伊左』を描いている新しめの作家でして、この画面作りへのこだわりを見るに、そっちのオリジナル作品にも手を出してみたくなるワクワク感があります。

で、本命の種村有菜。

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まずは知らないやって人のために少々。
種村有菜は90年代後半から活躍している少女漫画家で、昭和と平成のあわいに生まれたりぼんっ子が骨の髄まで洗礼を受けて“有菜っち世代”と化したほどの作家です。「イオン」「神風怪盗ジャンヌ」から始まり「満月をさがして」「紳士同盟クロス」「桜姫華伝」で少しずつ下の世代へ、…でそういや音沙汰ないなーと思っていたらここ数年の「猫と私の金曜日」であっという間に前線へ返り咲きました。
パッと目を引く華やかさはデビュー時から変わらず、そればかりか「アイドリッシュセブン」のキャラデザで昨今の二次元アイドルウェーブもがっつりおいしく料理していただきまして、もうこの作家と絵柄は世代問わずお年頃の女子の脳にクラクラきちゃうんだなという普遍的な概念にまでなりつつあります。
トレードマークはなんといっても、他の追随を許さぬキラキラの瞳。作画時間の半分はこの目なんじゃないかって位手が込んでます。自由帳に真似して描いてた子いるでしょ?でしょ??
という作家によるピノコトリビュートです。そりゃもう予想通り&期待通りですよ!


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………と思った矢先の大事件。


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………?……????

これにはホント驚きました。
女子のキラキラを敷き詰めたようないつもの有菜っちがどこにもいない、いわば作家性をギリギリまで削ぎ落とした画面。そしてブラックジャックの絵柄・演出を細部までトレスした上でのオリジナルストーリーです。絵だけでも十分ビビったのに、この話がまたすごくいいんですよ。トリビュートの名にふさわしく、BJと結婚式を挙げたいというピノコの訳アリのお願いが主軸になります。


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この背景とモブの雰囲気がまんま手塚。ピノコの髪の線も然り。


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右のコマのレトロSFめいたトーンとかどっから持ってきたんだという。

テンポのいい構成とシリアス&ギャグの割合、フキダシの形に至るまでかなり研究・模倣されています。ファンの一人が描いた別の漫画というより、この本のために拾われてきた未収録作品と言えば10人中7~8人は信じてくれそうな完成度。個性の強い作家からの完璧な剛速球、全く予想だにしない方向から期待を裏切られて「え…種村有菜って何者なんだ…?」という今までの作家イメージに瓦解が起きたのは言うまでもありません。
先の紗久楽さわ同様、この2本に関しては単なるアンソロへの寄稿ではなく、プロの手によるリスペクト作品なのだと感じます。

そして最後、「ふたつのスピカ」でおなじみの柳沼行による作品。


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あらゆるBJ愛と萌えピノコが飛び交う中、ストーリーは道に迷ったピノコとおばあさんのやりとりだけ。全体的にうっすらと夕焼け感というか、なんだか寂しいなぁと思いながら読み進めると、最終ページで種明かしが。


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この本が刊行されたのが2013年。そうか、被災地にかのブラック・ジャックが来ていたのか、凄まじい数の人々を救っていたから話に出てこなかったんだ…という祈りのような筋書きが炙り出され、思わず涙が滲みます。素朴な雰囲気で放たれた芯のある結末に、軽くボディブローを食らった気分。

まーー基本的にはピノコかわいい狭間黒男マジかっこいいで構成されるお祭り本です。版権が関わってる以上、このコミック以外に再録されることは稀かと思われます。ちなみにコラボイラストの寄稿者に市川春子、高橋葉介、水沢悦子など、けっこうなメンバーが揃っているのも特徴。ブラックジャック生誕40周年記念としてまとめられた本ですが、半世紀近く経った今なお、あらゆる世代のあらゆる作家にここまで羨ましがられる「奥たん」も他にはいないでしょう。
では最後に


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山本ルンルン。絵柄との親和性が最強。話も最強。


そして

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安定の田中圭一。アッチョンチョンておまえ。


***

手塚治虫ブラックジャック40周年アニバーサリー・ピノコトリビュート『アッチョンブリケ!』はこちら。

アンソロに出没した良作といえば
萩尾望都、植芝理一 → 『ネオ寄生獣』
福満しげゆき、逢坂みえこ → 『短篇集ヒミツキチ』
吉田基巳 → 『蟲師 外譚集』
鉄巻とーます → 『人間以外じゃダメですか?人外っ娘あそーと』
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担当:白石
  1. 2016/10/18(火) 11:00:28|
  2. 中野店白石

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