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子どもが産める男の子と社会の規律を遵守する女の子




フレンズのみんな集まれー! わーい。やったー。君はえにもじがついたものをみるのが好きなフレンズなんだね! どこから来たの? 縄張りは? ぼくは中野ちほーのまんがのフレンズはせがわだよー。うわっ、やめて、叩かないで。僕はセルリアンじゃないよ! ひどいよー。おすすめのえともじを紹介するから、終わったらいっしょに狩りごっこしようよ!

 というわけで、今回ご紹介するフレンズは……じゃなくて漫画はこちら。


『三文未来の家庭訪問』庄司創/講談社/2013年


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 表題作の「三文未来の家庭訪問」を含め3篇の短編が収録されています。

 まず最初の短編が「辺獄にて」。養護施設で育ち、高校卒業後職を転々とし、やっと安定した職と人並みの生活を手に入れた主人公でしたが、妻に浮気をされ離婚調停が済んだ矢先に、心筋梗塞で倒れてしまいます。まさにあと少しで人生終了という狭間の時間に、別の宇宙の超高度知性体からの干渉を受けます。その宇宙人たちは、地球人に限らず条件に適合した死に際の生命体の残り数十秒の人生を体感速度として1000年に引き延ばし、生前に善行を積んだ者には天国のような環境を、悪行をおこなった者には地獄を体験させるという「人生完結センター」を運営していた…。というのが導入で、まあ要するに閻魔様をSF的に解釈するとこうなるよってことですね。その閻魔大王的な宇宙人の目的や天国と地獄のサンプル、「人生完結センター」のシステムなど、SF的な設定もおもしろく、結局主人公が体験させられる地獄が「初めての昆虫遊びルーム」という、巨大な赤ん坊が人間を昆虫のように解体する地獄というのもなかなか悪趣味でいい感じです。
 そのSF的な地獄めぐりと並行して語られる、主人公が回想するある女性(日滝さん。主人公の会社でアルバイトとして働いている)との関係がむしろ物語の主軸なのですが、個人的には日滝さんが主人公にお金を借りるシーンで「これ、日滝さん絶対詐欺師でしょ!」と思ってたらそうじゃなかったというところが一番驚きました。疑って本当に申し訳ありませんでした。主人公と日滝さんは共に親に恵まれず、心の底ではどこか他人を信用しきれず強い人間関係に踏み込めないという共通点がある似た者同士なんですね。そんな彼らが、初めて他人と深い関係を持とうとするまでの物語です。そのことが一番現れているのが、日滝さんが全体重をかけて会社のドアを開く見開き1ページです。彼女にとってそのことがどれだけ大変なことなのかが表現されていて胸に迫ります。

 2番目の短編が「三文未来の家庭訪問」です。


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 舞台は近未来。科学技術の進展によりエネルギー問題が解決され、現在以上に豊かな時代。作品に必要な部分しか詳しい説明はありませんが、社会制度もいまとはちょっと違うみたいです。画像は家庭相談員の年金が担当児童の将来の税収による出来高制になっているという説明。さらに児童の担当権を株のように売買できる制度もあります。まあざっくり言うと「なめらかな社会」的な何かですね。


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 主人公の一人、楽観的で行動力がありコミュニケーション上手なリタくん。子どもが産める男の子です。男の子なのに子どもが産めるフレンズなんだね! すっごーい!


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 なぜ男なのに子どもが産めるのかというと、ひとことで言えばそういう遺伝子操作をしたからです。35年前に発足した「WOLVS」という集団生活団体が入居者に遺伝子操作をしていて、それが発覚。人権侵害ではないかと当局の操作が入り、「WOLVS」は強制解散させられます。そういうわけでリタくんはお父さんとお母さんと一緒に団地に引っ越してきたわけです。家庭相談員のカノセさんが怪しむように、その団体の目的がよくわからないんですね。レズビアンなら人口生殖するほうが早いし、男と自称する必要もない。集団生活団体にしては異様に外社会への適応能力が高く、危険思想も特にない。公式には単なる「趣味」ということで発表されましたが、どうにも他に目的があるのではないかと。


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 もう一人の主人公というかヒロイン。「出たよ支辺!!」ことマキちゃんです。決めゼリフは「どう言われても私は社会の規律を遵守します」。わかりやすく言うと、委員長タイプの最高ランクみたいなキャラクターです。お母さんが「ルール違反を見つけたら死んでも注意する宗教みたいな団体」に所属していてそうなっています。その団体の名称は「彼方建設」。一番の目的は、その名のとおり理想の都市を作ってみんなで暮らすことなんですが、モラルの高い人を集めるという方針が行き過ぎてややカルト化しています。


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 どうやらマキちゃんのスケジュールはバブル期のエリートサラリーマン並に埋まっているみたいです。リタくんはいじめられそうになった自分を理由はどうあれ助けてくれたマキちゃんに好意を抱き、マキちゃんの自由な時間を増やすために勧誘を手伝ったり、マキちゃんのお母さんに少し休ませてあげて欲しいと頼みに行ったりします。


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 お母さん超めんどくさそう! 初めて好きな女の子の家に行ってその子のお母さんにこんな話振られたら、ちょっと「お、おう……」ってなっちゃいそうですが、そこはコミュニケーション超人のリタくん。お母さんの話を正面から受けとめつつ、自分の意見も言い放ち、だんだん打ち解けていきます。
 マキちゃんのお母さんも最初から「彼方建設」の人だったわけではないんですね。マキちゃんが生まれる前はプログラマーをやっていて、マキちゃんを生むために休職していたら、プログラマーという職自体が技術の発展によってほぼ絶滅してしまい、することがなくなって「彼方建設」にハマってしまったという経緯なわけです。お母さんにとっては「彼方建設」が唯一の拠り所だったのかもしれません。


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 そんな中、「彼方建設」倒産のニュースが入り、事態は急展開を迎えます。これ以降のストーリーは現物を御覧ください。全体的にジェンダーモノとしても新興宗教モノとしても青春モノとしても近未来SFとしてもよくできていて、ちょっとてんこ盛り過ぎるくらいですが、SF的な仕掛けが有機的に物語に結びついてよくまとまっている良作です。団地が舞台なのもポイント高いですね。
 そして何よりマキちゃんかわいい! 本編を読んだけどマキちゃんのかわいらしさがイマイチわからないという方でも巻末のおまけ4P漫画「昼休みのマキちゃん(クレーマー)」を読めば、ああなるほどそういうことねと納得していただけると思います。おまけ漫画の中でも、言ってることは前とあまり変わらない委員長っぷりに見えますが、今度は自分の意思で、自分が思ったこと、言いたいことを言っているから逆に生き生きした印象になりますね。あと天然っぽいところが、いい……。

 最後の短編「パンサラッサ連れ行く」は5億年前の古生物たち(三葉虫的なやつ)をローマ時代風に擬人化して描かれた漫画です。パンサラッサとは古典ギリシア語で「全ての海」を意味し、今の場所だと太平洋があるところにあった海のことです。本書の中では一番短いですが、信仰と世俗の関係性がコンパクトにまとまっていて読ませる作品です。神を信じれば苦しみがなくなるわけでもなく、世俗的な人間が合理性だけで恐怖から逃れられるわけでもなく、価値観の違いはあれど共に連れ立って生きていくしかないとても弱い生き物(=人間)の行末とは。途中で説明があるように古生代の生物はほぼ直系の子孫を残すことなく、現在では絶滅しています。しかし、彼らにしてみればそんなことは知りようがありません。私たち人類がこの先どうなるのかを知らないように。そんなことを思いました。

 それじゃあ、ぼくはそろそろドッタンバッタン大騒ぎジャパリパークに戻るね。また狩りごっこしようね! 約束だよ! またねー。




『三文未来の家庭訪問』はこちら
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庄司創先生の他の作品はこちらからどうぞ。
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ちなみに『白馬のお嫁さん』は妊娠する男性要素をもっと展開している作品です。「三文未来の家庭訪問」がおもしろかったという方はこちらも是非!


(担当:長谷川)
  1. 2017/03/22(水) 11:00:25|
  2. 中野店長谷川

ビームコミック版おとぎ話




ビームコミックで好評連載中の「大人スキップ」良いですよね~見た目は40代女性!中身は14歳!のギャップが切なくて、毎月楽しみにしています。早く単行本にならないかな~
夢見る妙齢の女性描かせたらイチバンな気がする松田洋子さんの作品の中から紹介するのがコチラ!

「私を連れて逃げて、お願い。」


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「大人スキップ」の前に連載されていた作品ですね。
親が過干渉な箱入り娘・ヒメと、捨て子で親戚に育てられたオウジが愛(?)の逃避行する話。
二人の背景を覗き見ると家庭環境と元々の性格もあってか、友人と接する機会が無く、「暗黙の了解」「空気読む」みたいなスキルがまるでゼロなのが見てて切ない。テレビっ子のオウジはドラマの台詞、ヒメは物語の憧れシチュエーションからインスピレーションを受けた会話をするのですがそれが悲しいくらいぴったり合ってて困る!どちらも「誇張された、現実ではない世界」ではあるのですが、台詞ばっかりの会話から二人が自分と、自分を取り巻く人の付き合い方に少しづつ自信を持っていく姿がよいシーンだなと感じます。

二人とも世間知らずなので、自分の犯した罪から逃れる為に車で逃走…という絶望的な状況でも、重々しくならないのがよい!二人で海を見に行ったり、ヒメちゃんははじめて外泊にドキドキしてみたり…緊迫した状況なのになんとなくピクニックに見えちゃう。世間知らずである事が罪として描かれていないのが救われます。道中で合う人もなんとなくいい人ばっかりでホンワカ…


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「でもわからない 人の気持ちがわからない」 とか、悲しいんだけどどこかゆるい台詞がよいです。


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ヒメちゃんのふとした色気にドキっ…☆

ご紹介したのは全て1巻ページです。この後二人がどうなるのかはぜひ続きを読んでみてください~~!全3巻!

松田洋子作品はこちら 


(札幌店/中谷)
  1. 2017/03/21(火) 11:00:48|
  2. 札幌店中谷

重要なのは形だし。




女子力の高い吉田はつけてはいない。

ブラジャーの話です。男ですしね。
以前も下着のお話をしました。

今はすごいですよねー
大きく見せる物や小さく見せる物。
綺麗に見せる物や維持させる物。
種類は豊富です。

種類といえば先日、野菜ビュッフェなるものに行って参りました。
吉田はグルメではない。
キュウリがおいしくておいしくて食べすぎてしまいました。
野菜だけじゃなくお肉やパスタ等の種類が豊富で良い時間が過ごせました。

と、言うことで今回紹介する作品はコチラ


0211表紙


「ぺたがーる」です。

主人公は高校生の女の子。
自分自身があまり胸が無いため巨乳が嫌いなのです。
でもやっぱり憧れが。。

胸に物を詰め込んで大きくみせたりします。
皆様も学生時代ボール等を入れませんでしたか?
僕は無論しております。

でもやっぱり大きくても困るみたいですよ?


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このように運動会では良くも悪くも注目の的になります。


逆に小さい利点もあります。


0211その2


服が伸びてデザインが崩れことがなかったり、ワンサイズの衣装が入ったり。

やっぱり何でも良い点悪い点はあるんですね。


日常4コマでゆるいお話がたくさんでてきますし可愛い女の子がたくさん出てきますので目の保養になります。
またちょこちょこトリビア的な発見もあり新しい知識が増えます。

是非、疲れた毎日に潤いを。
そして最後に知って欲しい、胸がない人用の可愛いブラがあります。
貧乳はすぐ近くに。

今回紹介した作品の通販は コチラ から。


(うめだ店/吉田)
  1. 2017/03/20(月) 11:01:43|
  2. うめだ店吉田

フレンズ+フレンドシップ




これでもかっ!!ってくらい流行ってますね。フレンズ。
フル3DCGアニメーションのふわふわした動き、そして脳内ですべてのセリフが“ひらがな”変換されるような心地良さがなんともいえないマイルドさを醸し出しています。
世の中に疲れたフレンズはたぶん、「たーのしー!」ってなれると思うので視聴をお勧めします。

そして、すみません(汗)冒頭で語っておきながら「けものフレンズ」の記事ではなく……今回は個人的に去年あたりからはまり始めたMLP(My little pony)について、あれこれと。


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アメリカの玩具メーカーHasbroが展開する女児向けコンテンツ。
はじまりは1981年。1983年に“マイリトルポニー”として玩具、アニメーションと展開し80年代にアメリカで人気を博すことに。


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初期はウマ―って感じなんですが、現在の姿は洗練されていてキュート。今風なデザイン。

MLPは副題にFriendship Is Magic(邦題:トモダチは魔法)と記述されていて、アニメは現在日本でシーズン2まで放送。アメリカではシーズン6までが放送終了していてシーズン7もあるとかないとか……。
シーズンを通して語られる友情や尊敬の念、信頼する心、細かいジョークやキャラクター同士のかけ合いは大人が見ても十二分に楽しめる内容になっています。


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主要の6頭(メーンシックス)

海外では充実しているコミックも、日本では翻訳版が1冊だけ。


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内容はメーンシックスそれぞれについての話し(サイドストーリー)。海外コミックの嬉しいところであるフルカラーで表情豊かな姿は眺めるだけでも幸せな気分になれます。


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ペーパーバック版のイラストも入っているので見ごたえありです。


“動物”という個性的な生き物に形容された世界観から語られるストーリーは異質なものと分かっていても親近感があり、他者と違うことは当たり前だということを強く考えさせてくれます。人それぞれに個性があり、得手不得手があり、向き不向きがあり…マイナス部分をどう補うかという事は副題がじっくりとシーズンを通じて語ってくれます。
そして、けものフレンズも同じく、個性を尊重とした世界で寛容と受容に満ちた“超ピースフル”な作品だなと感じました。


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MLP翻訳コミックは こちらからもお求めいただけます↓
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けものフレンズのコミックスはこちらから↓
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うめだ店/山崎
  1. 2017/03/19(日) 10:59:23|
  2. うめだ店山崎

壮大なボンクラ草食系ラスボス誕生物語として読みたい「虐殺器官」




こんにちは、斧です。今回は(今回も?)ものすごくネタバレします。



 虐殺器官を観に行きました。やっと。1年以上待ちました。これが学生時代なら大学をサボってでも公開日の朝イチに行って劇場特典も揃えるつもりで劇場に入り浸ったんでしょうがいろんな意味でそんな余裕はもうないです。

 今の最高レベルのクオリティとリアルよりの絵柄のアニメーションでガンアクションと銃で四肢や頭部が吹っ飛ぶゴア描写をきちんと観れる幸せ。この言い方はなんだか誤解を招きそうですね。少年兵の身体が吹っ飛んで損壊する描写はほぼシルエットだったとはいえよくぞここまでと思いました。ちゃんと「月光」が流れたシーンは震えましたね。プライベートライアンはさすがに無理だったみたいで残念。

 最後の描写に賛否あるみたいですが、個人的にはあれはちゃんと見せないからいいんだろ!!と思いました。紛争地帯になったアメリカでピザを食べる主人公はまあ観たかったですけど、原作にはない指パッチンの描写や法則に則って作ってるっぽい原稿や付箋の並べ方からしてどうみても文法発動してるし。なんとなくそれと判ればいいのです。



 そういうわけで今回のレビューはこちら。


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虐殺器官(伊藤計劃著 早川書房)


 伊藤計劃という作家は、「ゼロ年代最高のSF作家」とかなんとか言われて、ものすごおおおおおおく評価されていて、処女作の虐殺器官は新人賞こそとらなかったもののハードSF小説としては異常なくらい売れて、日本のSF界では「伊藤計劃以前・以後」なんて言葉が出来てしまったように、同年代の作家や作品に与えた影響も強くて、長編2作目の「ハーモニー」ではフィリップ・K・ディック特別賞をとってしまったりしたんですよね。でも彼自身は、ラスボスにときメモの主題歌の歌詞を喋らせたり、今回レビューする虐殺器官冒頭で武装勢力が使ってるトラックがどう考えても頭文字Dだったり、あとは涼宮ハルヒとかスパイ大作戦とかのパロディを大切にし、短編「セカイ、蛮族、ぼく。」では、



「遅刻遅刻遅刻ぅ〜」

と甲高い声で叫ぶその口で同時に食パンを加えた器用な女の子が、勢い良く曲がり角から飛び出してきてぼくに激しくぶつかって転倒したので犯した。

短編集「The Indifference Engine」収録「セカイ、蛮族、ぼく。」より



という文章が冒頭から飛び出してきたりする作家さんなのでもっと気楽に読んで良いものだと思います。

 まあ要するに、散々考察も解説もレビューもされ尽くしている作家さんな訳で、今更自分がレビューという名の駄文を書きなぐる必要もない気はするんでね、ぶっちゃけSFマガジンに載ってた解説とか、公式ムックの「蘇る伊藤計劃」とか、あとは彼のブログとかを正直よんでほしいなあって感じなので!今回はこう、簡単に!さらっと!いつもみたいに超長文にはならない感じで!いきたいなあと考えてるんですがどうなるんでしょうね!!それは今の僕にはわからない。

 

 そういうわけであらすじをさらっと書いておくと、9・11テロやサラエボでテロリストの手作り核爆弾が炸裂した結果、買い物にも・交通にも・その他あらゆることに生体データによる認証が必要になった超・監視情報化社会になりつつある世界を舞台に、アメリカ軍所属の軍人兼スパイの主人公・クラヴィスが、世界中で魔法のように紛争と虐殺を惹きおこす男・ジョン・ポールを追って世界中を飛び回るというスパイ小説でありエンタメでありSF小説です。

 

 特殊部隊員のクラヴィス・シェパードは、紛争地域で虐殺行為を引き起こした人物を暗殺する任務をして回っています。というのも、監視によって先進国でのテロはなくなったけれど、そのかわり後進国での紛争や虐殺が異常に増えていたから。その日も武装勢力の指導者を暗殺しにいったけれど、何かがいつもと違う。



「頼む、教えてくれ。私はなぜ殺してきた」



 虐殺を指揮した張本人が、自分がなぜそんなことをしたのか全く理解していない異常事態に遭遇したのです。任務を続けるうちに、毎回標的として上がりはするものの逃し続けているジョン・ポールというアメリカ人が、世界中で虐殺を引き起こしているらしいことが明らかになります。

 彼が赴いた国や地域では、なぜか虐殺が起きて混沌に叩き込まれる。

 彼が訪れると、そこでは魔法のように死体の山が出来上がる。

 ジョンを追う中でクラヴィスはジョンの元愛人であるルツィアと出会い、とある理由から次第に惹かれていきます。そして任務を通してクラヴィスは監視社会における欺瞞と真相、ジョンの目的を知り、やがて悲劇的な結末を迎えることとなります。

 

 かなりハードで作中独自の専門用語も飛び交いますが不思議と読み辛さは全くと言っていいほどなく、人工筋肉が使われた工業機械や兵器・拡張現実などのガジェットも読んでいて楽しいです。もともとは作家になる以前から親しかったゲームクリエイターの小島秀男氏の作品「スナッチャー」を伊藤計劃氏が二次創作した短編がもとになっている今作ですが、映画に精通していた彼らしく、「007」シリーズなどスパイ映画の基本をおさえたようなストーリーテリングが見事です(と、どこかの解説で読みました)。



 主人公のクラヴィス・シェパード大尉とメインキャラのウィリアムズ以下アメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊の隊員は世界各国で暗殺任務をこなしています。作中では兵士のPTSDや、戦闘時の負傷で任務続行は難しくなることを防ぐため、「戦闘感情適応調整」や「痛覚マスキング」といった技術が使用されているのですが、これによって特殊部隊員の彼らは後進国内での激しい戦闘で死体の山に囲まれても、少年兵を銃で吹っ飛ばしても、銃で撃たれても、トラウマや痛みを感じることなく任務に従事することが可能になっています。

  

 しかしながら、まさにその技術によって主人公クラヴィスは、紛争地帯で生きるか死ぬかというある意味圧倒的なリアルの中にいるにも関わらず、実際には戦闘で人を殺し、生き残れたという実感が持てない、リアリティを感じることができないという矛盾の中で苦しみ、苦悩します。この殺意は、自分自身の殺意だろうか、と。僕は僕の意思でそうしているのだろうか。

 そんな彼だからこそ、自分の母親が交通事故に合い、植物状態のまま回復の見込みはなく、延命処置を続けるか否かを他ならぬ自分の意思で決めなければならなくなってしまったとき、激しく動揺してしまいます。そして処置を中止する同意書にサインしたときから、彼は初めて、人を殺したという罪の意識にとらわれ、そのことに関してトラウマを抱えることになります。

 作中でクラヴィスは、しばしば「死者の国」の夢を見ます。そこでは任務で赴いた紛争地域に転がっていたはらわたをこぼした子供や、頭の割れた少年や、虐殺の被害者たちの死体が、そして母親が、みな微笑んでどこかへと行進していく。夢の中でクラヴィスは、自分もその列に加わり、その悪夢的光景に安らぎを憶えます。彼は上記のような罪の意識を持っていて、赦しを欲しているんですが、その赦しを与えてくれる対象が既に死んでおりその機会が永遠に失われているという悲劇を抱えています。だからこそ死者に自分が肯定されるというその光景に安堵してしまう。彼は作中で常に母親の命を終わらせたということに悩み、そのことで母親本人からはもう赦しを得られないという悲しみが行動原理となります。戦場にリアリティを感じられないまま、個人的なことで思い悩む文学部出身の草食系軍人、それが彼です。



 そんなクラヴィスはジョン・ポールの足取りを追って潜入したプラハにおいて、チェコ語の教師をしている女性ルツィア・シュクロウプと出会います。彼女は元MITの学生で、そこの講師だった当時のジョンと不倫関係にありました。潜入任務の過程で彼女と親しくなっていくクラヴィスは、ある日彼女から罪を告白されます。曰く、「サラエボに核爆弾が落ちたあの日、ジョンと寝ていたの」。彼とセックスをしているまさにその時、ジョン・ポールの妻子は観光で訪れていたその地で塵も残さず吹き飛んだのだ、と。クラヴィスの部下であるアレックスの言葉がここで重さを増してきます。



 「地獄はここにあります。頭になか、脳みそのなかに。大脳皮質の襞(ひだ)のパターンに。目の前の風景は地獄なんかじゃない。逃れられますからね。(中略)だけど、地獄からは逃れられない。だって、それはこの頭のなかにあるんですから」文庫新装版52ページより



 ルツィアはそのことに関して罪の意識を感じています。しかし、その罪を告白し、赦しを乞う相手はもうこの世にいません。そしてその点でクラヴィスは彼女になかば一方的に共感し出します。この人は僕と同じ罪を抱えているのだ、この人に自分の罪を告白すれば、自分はそれで救われるのだと執着しだします。ここらへんのくだりのボンクラ感というか、勝手にそれと思い込んで女性の尻を追っかけ出す童貞くささというか、そういうのがなんだかものすごく好きなんですが、マザコンの童貞とか散々ないわれ方をしているのも知ってるのでとても複雑。

 そんなルツィアにつれられ、クラヴィスはとあるバーのマスター・ルーシャスと出会います。彼はクラヴィスに「対価としての自由」の考えを語ります。人はみな、何かをする自由を手放し、別の自由を得ているのだと。今のアメリカはじめ先進国は、プライバシーの自由を放棄してテロへの抑圧からの自由を得ているのだと。だが実際は、そのトレードはまったく釣り合っておらず、監視を強化すればするほどテロは増加する傾向にあり、それは公開されている統計データでみることができる事実だと。



 「あんただったら知ってるだろう。世界中で顧みられていない悲惨な内戦がいくつあるか。人が興味を持つのはそのほんの一部だ。人間は、見たいものだけしか見えないようにできているんだ」文庫新装版292ページより



 工業機械に使われている人工筋肉は、実は人工ではなく、生きたイルカやクジラを解体して取り出した筋肉繊維でできている。調べれば誰でも知ることが出来るのに、誰も知らない。ドミノピザの普遍性の中の暮らしも、映画ストリーミングサービスの無料プレビュー15分のリピートも、そういう嘘っぱちで成り立っている。

 そういうことをクラヴィスに語ったルーシャスは、じつはジョン・ポールその人と繋がっていて、ついにクラヴィスはジョンと邂逅を果たすことになります。



 ジョン・ポールはなぜ、後進国で虐殺を引き起こすことが出来るのか。ジョン・ポールはどうやって、虐殺を引き起こしているのか。その方法は物語中盤のこの時点で結構あっさりと明かされます。人間の脳には生得的な文生成機能がある。人間の脳は、その機能により言葉によって無意識に行動が決定づけられてしまう。言語学者だった自分は、戦争などで残虐行為がおこった地域のテキストデータを文法解析にかけて、特定のパターンがあることを見つけた。ではそのパターンで作られた文章を、残虐行為の起こっていない地域に流したら。

 人間の行動は、意識は、魂は、言葉によって規定されてしまい、そのことは遺伝子にコードされていてどうすることもできないのだとジョンは語ります。じゃあその言葉に左右されてしまう人間の意識ってなんなん、というのが次作「ハーモニー」のテーマのひとつであるんですがまあその辺はまた今度。



 この時点ではジョンが虐殺をまき散らす動機はまだ明らかにはなりません。それが明かされるのは、クライマックスのアフリカにて。その前にクラヴィスたちは、ジョンを拘束するために訪れたインドで、まさに地獄をみることになります。



「どうですか、いまなら子供を殺せそうですか」文庫新装版269ページより



 インドでの任務直前、クラヴィスに感情調整を施したカウンセラーの言葉です。痛覚をマスキングし、感情面も戦闘に適応するよう調整された兵士たちは、インドで麻薬づけにされた少年兵を殺してゆく。適切な処置をすれば単なる仕事としてそれが可能になり、結局のところ自分たちは、麻薬で麻痺した目の前の子供とそんなに変わらないと部下には指摘される。それでもクラヴィスは選択し、背負おうとします。殺したのはまぎれもなく自分の意思で、これは僕の罪だというふうに。しかしながらやはり、彼自身はそのとき感じるべき身体の痛みも心の痛みも感じることはありません。そして地獄。初めて自分たちと同じような特殊部隊との戦闘を経験することになるのです。

 痛みを感じない兵士同士の戦闘は、頭を吹っ飛ばすか身体をミンチにするまで続くハイテクゾンビ同士の殺し合いでした。



<わかりません、他の客車がどうなっているのかは。(中略)俺にしても、外に出ようとしたときに左腕を肩から吹っ飛ばされちまいました>

それまでとなんら変わらぬ声色のまま、リーランドがものすごく派手な事実をさらりと言ったので、ぼくは思わず笑いそうになった。(中略)いやいや、まいっちまいましたよ、気がついたら頭がなくなっていたんでさ。

文庫新装版319ページより





腕がもげても下半身がなくなっても、完全に死ぬまでは銃を撃ち続けるグロテスクな光景。悪趣味な笑い。現実になったモンティ・パイソン。仲間が大勢死んで、まさにそれは地獄だったけれど、クラヴィスはやはり何も感じることができない。

 

ぼくはからっぽだった。誰を憎めばいいのかさっぱりだった。(中略)ぼくが必要としているのは罰だ。ぼくは罰してくれる人を必要としている。いままで犯してきたすべての罪に対して、ぼくは罰せられることを望んでいる。

文庫新装版330〜331ページより



またもやジョンを取り逃がし、部隊は敗北。そして彼はただただ罰と赦しを欲します。ジョンと共に消えたルツィアを、それこそ強迫観念的に。痛みもそれに伴う成長もなにも得られずからっぽのまま思考は堂々巡り。その状態で主人公クラヴィスの物語はクライマックスへ。



 徹底した監視によって先進国のテロはなくなった様に見えたけど、それは全部嘘だったと物語中盤で明かされましたが、実際問題、作中では先進国でのテロは起きていませんでした。それは何故だったのか、ジョン・ポールは本当は何を目的に何をしていたのか。アフリカ大陸・人工筋肉用にクジラやイルカが養殖されているヴィクトリア湖沿岸で、クラヴィスはジョンとルツィアに再会し、ついに真相を知ります。



「愛する人々を守るためだ」文庫新装版368ページより



サラエボで妻子が死んだ時思ったんだよ、彼らには彼らに殺し合ってもらう、こんな悲しみは十分だ、アマゾンで買い物をしてみたいものだけ見て暮らす、そんな世界を守るとジョンは言います。テロを起こすほどの憎しみが先進国に向く前に、内輪で混乱を起こすと。価値観の逆転がここで起こり、世界中で虐殺を起こした張本人が実は、アメリカはじめ先進国にとってはある意味で正義だったことが明かされます。先進国の平和は、後進国での混乱のうえに成り立っている。自由は、死体の山とのトレードの上に成り立っている。

 その自由の対価として責任を負う必要があるとルツィアは言います。クラヴィスはジョンを逮捕し、すべてを公にすべきだと。それが彼女なりの罪に対する責任の負い方で、彼女の選択で、決断でした。クラヴィスも賛同します。僕たちは罪を背負うべきだと、彼はここに来てようやくすべてを受け止め、からっぽのままただ悩むだけでなく前に進もうとします。



「いままでは世界なんか守っちゃいなかった。ただ命令されたから、やっていただけだ」

「これからは、違うのかい」

「わからない」ぼくは正直に答える。「でも、いろいろなものがはっきり見えるようになる。そう思うんだ」

文庫新装版383ページより



しかし、ジョンが語った真実は、テロ対策として情報インフラを整備してきた先進国つまりアメリカにとって不都合そのもので、結局すべてもみ消されます(あくまで一旦は、ですが)。そうまでして守らなければならない自由とはいったい何なのか。地獄の上に浮かんでいるはずの、このピザを認証で受け取りビッグマックを食べきれなくて捨てる世界の正義とはなんなのか。ここでクラヴィス・シェパードという青年は、またもやからっぽになってしまいます。そのからっぽの状態のまま、とある決断をするわけです。ジョン・ポールから託されたメモを手にして。



ぼくは罪を背負うことにした。ぼくは自分を罰することにした。(中略)とてもつらい決断だ。だが、ぼくはその決断を背負おうと思う。

文庫新装版396ページより



 ジョン・ポールがアメリカを守るためにそれ以外の国の命を背負うと決めたように、ルツィアが平和は地獄の上に浮かんでいることを公にすべきだと決断したように、クラヴィスもようやく彼自身の決断をします。誰かに罪や罰を背負わされ、誰かに罰してもらうのではなく、彼自身で罪を背負い、彼自身で自分を罰することにするのです。あくまでからっぽのまま。見たいものしか見ないようにしてきたみんなに、ここ以外の場所はどれだけ地獄だったのかをこれ以上ない方法でわからせるということ。



 外、どこか遠くで、ミニミがフルオートで発砲される音がする。うるさいな、と思いながらぼくはソファでピザを食べる。

 けれど、ここ以外の場所は静かだろうな、と思うと、すこし気持ちがやわらいだ。

文庫新装版396ページより



 それはどこまでいっても彼のエゴで、ジョンとルツィア両名の思いを踏みにじることにもなるのですが、僕としてはどんな形であれあんだけふらふらしてた彼が彼自身の決断をすることが出来たことを讃えたい。まあこの後えらいことになって「ハーモニー」の世界に繋がるんだけど。結局世界中巻き添えで地獄をみるけど!でもちょっと待ってください。自分のエゴを押し通した結果(ある意味で)世界を滅ぼすラスボス。とっても素敵ではないですか。そう、この「虐殺器官」は壮大なラスボス誕生秘話なんだよ!「エピソードⅢ」なんだよ!(絶対ちがう)



 まあ、僕の好みとクラヴィスという人物が最終的に決断できたからといってそれで成長できているかどうかはまた別の話で、だからいろんなとこで彼に関してあーだこーだ言われるのもわかりますよ、わかりますけど、結局彼の行動原理ってどこまでいっても大切な人を失った悲しみなわけで、だから彼には共感せざるを得ないんです!だって大事なひとがいなくなった悲しみって普遍じゃないですか。ラストシーンも起きてることとは裏腹にすごくポジティブな感じがして、ああ前向きになったねクラヴィス!ってなるじゃないですか。ならないですか、そうですか。



 そういえば今作で使われた「感情調整」や「感覚のマスキング」などのガジェットは世界観を共有している短編「The Indifference Engine」でも使われていて、ここでも先進国側の正義の押しつけで起こるグロテスクな悲劇と妙に前向きさを感じる読後感とかがたまらないという話をしたい。もうこのままレビューいっちゃいましょうか。もういいですか、そうですか。なんですかね、こんなに長くするつもりはなかったんですけどね、手がね、勝手にね。



次回は「ハーモニー」の感想を書きますよ。



(担当 斧)



「虐殺器官」ふくめた伊藤計劃の作品はこちら。

https://order.mandarake.co.jp/order/listPage/serchKeyWord?categoryCode=11&keyword=%E4%BC%8A%E8%97%A4%E8%A8%88%E5%8A%83
  1. 2017/03/18(土) 11:00:00|
  2. 中野店斧

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